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ようこそいらっしゃいました。すてきな書物と美味しい食べ物をどうぞ。

『アイの歌声を聴かせて』映画鑑賞の記録 

しばらくぶりに映画を観てきました。

『アイの歌声を聴かせて』(公式サイト

Twitterの親愛なるフォロワーさん達が何人かこの映画を観られていて、みなさん絶賛されていたので、だんだん気になってきまして。
映画ならシートに楽に座っていれば大丈夫だしな、と平日の有休を利用して、のんびりお出かけ。

予備知識ほぼゼロで観に行ったのですが、学園青春もの&SF、かな?
AIの少女シオンが突然高校の教室に転校してきて、わきあがる騒動や人間関係のドラマ、こもごも。ミュージカル調。

観終えたあと、なんとも爽やかで晴れ晴れとした気分になれる、素敵な映画でした。
めちゃくちゃ派手なものがたりというよりは、こう、しみじみと日々の延長線上にある幸せをかみしめられるような。(いや、実際けっこう派手な展開もラストではありましたけれど)
高校生、甘酸っぱいなあ。青春だなあ。いいなあ。
友情もロマンスも、「愛」の気持ちを堪能できました。


以下、ネタばれありの感想メモ。
少女小説ロマンス読みの趣味に突っ走り気味です。



田舎の地方都市?の緑豊かな自然と、近未来的な人工物が溶け合っている背景が、私はとても好きでした。
ここのあたりも私自身の日常と地続きになっているような感じがして、違和感なく馴染んでいるのがなんというか安心できる光景でした。
AIがご飯の炊き具合とかコンロの火加減とか微妙なところまで管理してくれるってすごい!でも実際十年二十年後にはこういうのが当然の技術になっていてもおかしくないのかもですねえ。
なんてことないサトミとお母さんのふたり家族の日常で、ここからすんなりものがたりに馴染んでゆけました。
ふたりのおうち、外見は田舎の一軒家なのに、すごい!これは実証実験でサトミのお母さんが携わってリフォームしたのでしょうか?
星間のまちの仕組みも箱庭みたいで独特で面白いなと思いました。

サトミちゃんは真面目で頑張り屋の女の子だけど、頑なでどこか世渡り下手で、周囲から遠巻きにされている。
そこに現れたのは、母のプロジェクトで作られたAIの少女・シオン。
サトミにいきなり「幸せ?」と突撃してくるシオンにはじめはみんなぽかーんとしていたものの、次第にクラスに馴染んできてるのが、すごいよ。
私はサトミにいちばん感情移入して観ていたので、サトミ以上にクラスに受け入れられているようなシオンの姿に、なんだかちょっとサトミがやるせなかった。

シオンの秘密を知ってしまった五人、はじめはバラバラしていたのが、色々な出来事を経て次第に秘密を共有するかけがえのない仲間たちになっていくのが、とってもとっても良かったです。
一見滅茶苦茶ばかりやっててサトミを振り回してばかりのようなシオンが、気が付いたら皆をいい風に導いていってて、「幸せ」をいくつも生み出していくのですよねえ。
アヤちゃんはじめは意地悪な女の子だったけど、イケメンの彼氏の本質をちゃんと見てしっかり好きだという、素敵だな。サトミとも次第に打ち解けてやっぱりちょっと意地悪なんだけど根は面倒見のいい優しい子で、ううう、可愛い。
彼氏のごっちゃんはイケメン!!まんべんなく何でもできて世渡り上手で、でも空虚なものも内に抱えていて、そこを理解してくれてる彼女がいて良かったねえ~ふふふ。
柔道部員サンダーくん、少しくすぶったかんじがしていたのが、シオンの登場で少しずつ上向いてきていて、真っすぐに女の子としてシオンを見て惚れてしまう彼が、すごくまぶしくて私が照れ照れしてしまいました。ふたりでダンスでも踊っているようなテンポの良さ!格好いい!!

サトミの幼馴染の機械オタクの天才少年トウマ君。明らかにサトミに好意を抱いているのだけれど、上手くサトミ本人に振舞うことができない。
見た目はいまひとつぱっとせず対人関係は不器用なのだけど、シオンのAI構造上のトラブルとかにはめっぽう強くて、いざという時には滅茶苦茶頼もしい。
不器用な頼もしさが積み重なってきて、私も段々トウマ君のファンに。
いや、格好いいですねえ彼は。最初から最後までサトミの完全な味方であり見守り続けている唯一無二のヒーロー。
淡々と優しいトウマ君の存在は、サトミに入れ込んで映画を観ていた私には、一服の清涼剤のような存在でした。
そしてサトミがそもそもなぜ「告げ口姫」と呼ばれ孤立しているのか。その理由が切なくて、サトミの頑なさの底にあるトウマへの愛情になかなか泣かされました。
いやあ……幼馴染もの最高ですね……。

シオンはサトミのお母さんのプロジェクトで、優秀なお母さんには敵が多くて。
シオンとの日常を上手くお母さんに伝えられないサトミの気持ちがなんだかすごくわかるなと思いました。
バリバリ働くお母さんを支えようと健気に一生懸命に頑張っているサトミちゃん、胸がきゅうっとなります……。
そして敵に足をすくわれ、シオンプロジェクトがいったん駄目になり、シオンは取り上げられてしまう。
みんな辛いけれど、なによりサトミちゃんが辛いよ。
上手く打ち明けられなかったから傷が大きくなったというのはあるかもですが、あんなに荒れたお母さんと一つ屋根の下ふたりきりって耐えられない……。いやお母さん自身も辛いけどさ!分かるけれどさ!

家を飛び出して泣き叫ぶサトミちゃんに、必死に寄り添おうと頑張るトウマ君。泣ける……。
トウマ君の歌のへたっぴさに、改めてシオンの歌の素晴らしさを実感してしまった(苦笑)。

そして明らかになるシオンの正体(?)
トウマ君昔からすごすぎるな。天才少年としか言いようがない。
そんな彼が昔から大好きだったサトミちゃんのために作ったのがシオンで、だからこそシオンはサトミの幸せのために行動していた、プログラミングされていた、というのが、なんというか色々すごすぎてぽかーんとなってしまいました。
ちっちゃなサトミちゃんとトウマ君が可愛い~。
シオンのしぶとさは、トウマ君の技術の高さと、彼の愛情の深さあってこそなのかな。
シオンってつまりトウマ君がサトミちゃんを喜ばせるために作り上げたプレゼントの進化系??
トウマ君の愛のスケールが大きくて、それこそ少女趣味のプリンセスが結ばれる王子様みたいにきらきらしていて、とっても心がときめくのですが……!!

ラストはシオンを慕う仲間たちとサトミの母親の、シオンを救うための戦い。
一歩間違えれば破滅が待っている緊迫感漂う戦いでしたが、皆不思議と悲壮感がなかったな。むしろ楽しそうでした。
全員最高の仕事をしました。格好良かった。
あの階段めちゃくちゃ大変そうでしたね。
蘇ったシオン、相変わらず力の使い方がキラキラパレードで、シオンが帰ってきた!!と実感できました(笑)。

会長、なんとなくそんな気はしていたけれど、ナイス決断。
まあ確かにお母さんのプロジェクトは最初から結構危ない橋を渡っていた気がしていましたからね……。いっそ堂々とやってもらった方が星間のためにも良い気がします。
アヤちゃんとお父さんは少し歩み寄れたのかな?
そしてサトミちゃんとトウマ君が現実世界でもちょっと良い感じになってきていて、微笑ましく幸せな気分になれたところで、ものがたりはおしまい。

青空にのびやかにひろがるシオンの澄んだ歌声。
素敵なタイトルですね。

個人的にはサトミちゃんとトウマ君の幼馴染ロマンス要素がなんといっても最高でした!!
ふたりともお姫様と王子様にふさわしい優しさと賢さと勇気を兼ね備えていて、ハッピーエンド最高。
ある意味シオンってふたりの子供みたいではありませんか(笑)。
生涯仲睦まじい夫婦になる未来しか見えないですね。トウマ君が星間に入ってどこまで活躍するのか末恐ろしい気がしますが、彼は自分より大切で幸せになってほしいひとがきちんと存在しているので、そのひとが隣にいる限り、道は踏み外さない気がします。
タイプの違う良い友人にも恵まれていますし。

以上、趣味に走った感想メモでした。


この一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪


カテゴリ: 日常のお話

『九重家献立暦』白川 紺子 




旧家の九重家で厳しい祖母に育てられた茜は、大学進学後は離れていた故郷に帰ってきた。
家には当時と変わらぬ頑迷な祖母と、民俗学の調査のため居候しているという青年が。
やけに親しく語りかけてくる彼は、実はかつて茜の母が駆け落ちをした相手の男性の息子で——。


白川紺子先生の新作です。
『三日月邸花図鑑』と同じ城下町が舞台の作品ということで。

表紙イラストの桜の下でほんのり微笑む着物姿の女性が淡く優しい色使いでとても美しいです。

『三日月邸』の方とは違い、今回のお話はファンタジー要素はなし。
旧家の長い間積み重ねられ受け継がれてきたものやふとした佇まい、古風で静かな街並みの描写など、それでもどこか通ずるものはあった気がします。
伝統はあるものの分かりやすい観光地らしさが薄い、すこしセピア色がかった地方の城下町。なんだか読んでいてきらきらしていなくて、懐かしさを感じて心が休まります。
白川紺子先生の端正でふとした美しいものを切り取る描写がやはりとても美しく、読んでいて所々じんわり味わってしまいます。

主人公の茜は、不愛想で自分に強烈な劣等感を持っていて、なんだかとげとげしくて生き辛そうな女の子だな、というのが最初の印象。
家に帰ってきても祖母が優しくしてくれるわけではなく口では小言ばかり、ぽっと出の同居人の方がよほど家に馴染んでいるように思えて、さらに劣等感を持つ……みたいな。
所々の描写から母譲りの美しい容姿の女性であるということは伝わってくるのですが。

ただお話が進むごとに、茜がそういう人間にならざるを得なかった過去のしんどい出来事が語られてゆき、あんまり辛くて読んでいて心が痛くてたまらなかったです。
彼女に笑顔がないのは母のようになるなと言われて育ったからだし、学生時代やゼミでのいざこざも彼女は全く悪くないのに彼女の味方はどこにもいなくて、自分が悪いのだと思うしかなくて。
この空気、本当に辛い……。

茜の育ての親である千代子さんという人は、実際には茜にちゃんと愛情を持っているのは段々伝わってくるのですが、伝え方が明らかに色々間違っているんですよね……。
茜が苦しんでいる大部分は千代子さんの言葉の呪いじゃないかと思えてきますし。
茜の母の景子さんのこともあるので、よけいにこじれちゃっていますよね。
千代子さんがかつて景子さんとぶつかって、あげくに最悪の形で家を出ていかれたのが彼女の中で傷になっていることは分かるんですが、その屈折を茜ちゃんにぶつけてしまうのは駄目でしょう……読んでいて憤りを覚えてしまいます。
実際には千代子さんは完璧な貴婦人という訳ではなく、弱い部分も持った一人の不器用な女の人であった、というのを茜が悟る場面があり。ほろ苦い気持ちになりました。
確かに押しに弱いひとですね。納得しました。

茜と千代子さんの緩衝材にもなってくれていた、居候の仁木君。
にこにこ愛想が良く千代子さんとの上手い付き合い方も心得ている好青年。しかし茜の立場からすればうさんくさい(笑)。
しかし彼の民俗学の知識と情熱は間違いなく本物で、彼の饒舌な語りになんだか私も圧倒されていました。
普段愛想が良い彼が隠し持っている苛烈なものには、やはりひやりとしました。

なんというかそれぞれの屈折と影を持ったでこぼこの三人が、同居生活で料理を作って食卓を囲むことで、少しずつ不器用に距離を縮めて、家族とうっすら言えるような淡い関係を作り上げていく様が、物語の救いだったように思います。
仁木君の愛想の良い押しの強さは大事でしたね。
菜飯と味噌田楽の組み合わせに、手間暇かけた梅仕事、混ぜご飯に盆汁。梅酒の飲み比べ。お赤飯に小豆飯、おはぎ。栗ご飯。
バターとミルクの香りの手作りのクリームシチューがなかでも印象的でした。
本当は千代子さんも茜ちゃんを素直に褒めて可愛がりたかったんじゃないかなあと、クリームシチューの描写を読んでいると思えてきて、それがほろ苦くもあたたかい読後感に繋がったように思いました。
あとお祭りの屋台の食べ物を分けあって食べている場面。なんとなく開放感があって良かった。

茜のおじさんから紹介された職場ということでどうかなと思っていましたが、人間関係が良い職場は良いですね。
百合丘さんがすらりと格好良く大人の女性の良識や気遣いも当たり前に持ち合わせていて、お気に入りのキャラでした。
うっすらなにかの思惑が透けていたような気もしつつ、差し入れのケーキの好みがぴったり合って三人でおやつの時間をしている場面が私は好きでした。
あと百合丘さんおすすめの喫茶店のオムライス。これは『三日月邸花図鑑』にも出てきた喫茶店でしょうか?なんだかおいしそうなオムライスで印象に残っていたんですよね。
百合丘さんみたいなひとは確かに、景子さんみたいなひとともそこそこ良好な関係を築けそう。

景子さんというのも独特の魅力がある人で、茜視点の語りから想像してみても不思議と憎めないというか。
彼女なりに娘に愛情はあったのも、なんとなく、分かりましたし。
そうはいっても茜ちゃん的には最悪ですよね……千代子さんに実は無心をし続けていたのもなんだかなという。
人間ってみんな弱い部分を持っていて家族にもたれ合って生きずにはいられないのかな。と。

上本町行きの特急というワードにぴんときてしまった近隣の住民(笑)。
ふたり突然の大阪行きでの喫茶店のフレンチトーストも、なんだかほっとする美味しさが伝わってきました。
自分を捨てた親に妥協なんかしたくない、というか、そういう気持ちを分かりあえる存在が茜にちゃんといてくれていたということに、ちょっと泣きたくなってしまいました。
そしてふたりが帰る家では千代子さんが、ご飯をちゃんと準備して待っているという。

端正なのだけど落ち着いたトーンのお話で、読んでいて心がそっと整えられるというか、こういうお話も良いですね。
茜ちゃんと仁木君には今後幸せな人生を歩んでほしいな、と思うばかりでした。
表紙を改めて眺めていると本当に、茜ちゃんには自然な微笑みを浮かべられる人生を歩んでほしい……。


この二日間の間にそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 白川紺子 

『派遣社員あすみの家計簿』青木 祐子 




自称飲食店社長の恋人に逃げられ、会社を「寿退社」してしまった藤本あすみ。
彼女に残ったのは高額なカードの支払だけ——。
親友に説教され家計簿をつけはじめて派遣会社に登録し、自炊と日雇い仕事で食いつなぐ、あすみの節約生活がはじまった。


『ヴィクトリアン・ローズ・テーラー』『これは経費で落ちません!』の青木祐子さんの新作。
金欠アラサー女子の節約サバイバル小説、とのことでした。

堅実で優秀な経理社員の森若さんとは全然違うタイプ、あすみちゃんはお気楽でお金にだらしなくて計画性のない「ダメダメ」アラサー女子です。
森若さんよりずっと私自身の実情に近いので、読んでいて色々刺さって痛いです(苦笑)。

特に最初の方は一体どうなるかと絶望的でしたが、なかなかどうして、あすみちゃん、頑張るのです。
これまでの暮らしとは全然違う徹底節約ライフ、結局最後まで投げ出さずに貫いてますし、いやおうなしにたくましく成長していきます。スコーンを自作しだしたあたりから楽しくなってきました。
なにより彼女がしんどくてどうしようもないときに手を差し伸べてくれた女性達との絆、友情がいい。最高!!
女性の心理と複雑な駆け引きの描写はさすが青木先生、お上手すぎます。
ずるいところもあるけどいざというときには女の子の友情を迷いなく優先できるあすみちゃん、私とても好きです。

最初にあすみちゃんのこれまでの生活に徹底的にダメ出しして説教した仁子さん。
正直はじめは仁子さんみたいなひとがどうしてあすみちゃんと友人でい続けているのか疑問に思うくらいだったのですが、お話の後半になり仁子さん自身の事情も出てくると、ああ彼女だって完璧超人ではないし悩みだってあるし恋人問題もあるし、彼女も確かにあすみちゃんのたくましさやお気楽思考に救われているんだな、とだんだん納得できました。
それでもあすみちゃんの生活を無理やり最初に立て直せたのは仁子さんのおかげ。持つべきものは友としか言いようがないです。

元彼の置き土産も活用しつつ、あすみちゃんがんばるよな~。
個人的にキャベツともやしと卵とコメの自炊生活を投げ出さずにずっと続けている時点ですでにすごいと思いました。
トレッキングシューズで歩くし。家計簿もちゃんと続いているし。(モンブラン筆太郎がなかなかいい味出してます)
一度本当に危うかったところで、本をでんとかかえて古本屋に売り払いに行く彼女、良かった。

日雇いの仕事で知り合ったミルキーと深谷さん。
全然タイプが違うけれど、ふたりともいいひとだった。本当にいいひとだった。
あすみちゃんを不器用に励ますミルキーの三千円に泣きました。お寿司の美味しさが心に染みる。
深谷さん謎の人でしたがまさかそんな設定だったとは!あすみちゃんは人のつながりには恵まれますねえ。
深谷さんの姉の椿さんも厳しい人かと思えば情に厚い良い人だった。
仁子さんも交えてのお食事パーティーでの、ミルキーの「プリンスエドワード島に行ってみたい」の願いが、いつか絶対に叶いますように。(こんなところにアンシリーズの同志がいたとは!)

派遣のお仕事も決まらないと不安ですよね。
そして派遣先でのあすみちゃん、なかなか仕事ができるひとなんじゃない?頑張ってるね?
矢野さんのアドバイスも静かにぐっときました。
そしてあそこで仁子さんのメッセージに飛んで駆けつけるあすみちゃんだからこそ、彼女が困ったときに色々な人から助けの手が差し伸べられる、ということなのでしょう。

元彼さんはダメダメですね……。
再会して危うくペースに飲み込まれかけたあすみちゃんでしたが、ミルキーからの贈り物のポッキーで目が覚めたという場面が、すっごく好きでした。
八城さんも見栄っ張りでけして超人ではないけれど、取り繕わずに気楽に付き合えるひとで、そういう意味ではいいのかも。
結局完璧な白馬の王子様は最後まで現れなくて、でもそれがかえって救いというか、良かったです。

ヴィクロテのドロシア様の例もあるし、どこまで落ちてゆくのか最初は正直不安でしたが、読むと元気になれる、素敵なお話でした。(むしろドロドロの沼は元彼さんの方だな……あすみちゃんが絶ち切れて本当に良かったです)
森若さんのシリーズで出てきた会社の名前がちらっと出てきたのも楽しかったです。
これはシリーズ化するのかな?あすみちゃんの奮闘記の続き、またぜひ読んでみたいです。
私も深谷さんに人生のアドバイスを乞いたいです。
私も節約できるところは節約しよう。しなければ。ケーキばかり食べに行っていてはいけない……。

『これは経費で落ちません!』読んでいるのに感想を書けていない!最新巻もとても良かったです!!
会社の暗部に首を突っ込まざるを得なくなった森若さんの行動が格好良すぎました。
森若さん大好きな経理部の面々がやはり和みます。真夕ちゃんが癒し。

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 青木祐子 

『ちどり亭にようこそ4 彗星の夜と幸福な日』十三 湊 




ちどり亭の店主・花柚と総一郎の結婚式まで、ついにあと数カ月。
そんなときになって、総一郎の祖母・咲子が突然ちどり亭を訪れる。
彼女はちどり亭を継ぐという彗太を試すような条件をつけてきて、それを受けて彗太は、一週間咲子のために弁当を作ることになる——。

『ちどり亭にようこそ』シリーズ第四弾にして完結巻。
もしかして前の巻で完結だったのかな?とか実はちょっと思っていたので、こうして四巻目が無事にでて読むことができて、とても嬉しく思います。

京都のちいさなお弁当屋さんを舞台につづられる、最後まで、幸福な日常のものがたりでした。
この作品世界の丁寧にきりりと暮らしを営む人たちの醸し出す雰囲気が、やはりとてもここちよい。じんわり癒されました。
季節の言葉の一つ一つも風流で響きも美しくて良きものです。
日本の伝統や年配者の知恵が随所に織り込まれる物語ですが、語り手が彗太君または花柚さんメインなので、読み手に取っては構えずにすんですんなり親しみやすいんですよね。
無邪気で育ちの良いお嬢様で若者たち(いや花柚さんも若者だけど)を家庭料理で優しく柔らかく導く花柚さんも、花柚さんの元で修業を重ねてまた着実に成長を遂げている彗太くんも、やっぱりとても好きだなあ!
姉弟のようなちどり亭のスタッフふたりに再び会えて嬉しいです。
ヒロインとヒーローのふたりそれぞれの恋愛の行方も読みどころ。
特に花柚さんと総一郎さんはすったもんだのあげくの結婚式直前。
ここまで、ようやく、辿り着いて……!!
と安心するにはまだ早く、この期に及んでまた横やりが入るところから、物語ははじまりました。

「冷や飯食い」と彗星の夜
本当に、花柚さんと総一郎さんの家族が店にやってきて、いいことがあったためしなんてないな……。いいところのおうちってすごいなとしみじみ。本当に苦労しますね。
その分受難を共に乗り越えて、このカップルの絆は一層深まっていっている、彗太君は成長していってる、ちどり亭はより素敵なお店になっていってる、とは思いますけどね。
冬のお弁当における冷たいご飯はやはり永遠の課題ですよね……!!私もお昼にレンジを使えなかった学生時代はお弁当の冷たいご飯がとても苦手だったので、良くわかります。あたたかスープ弁当のありがたみがつたわってきます。
私、夫の事嫌いなのよね!という咲子さんの爆弾発言には、花柚さんと彗太君共々あっけにとられましたが(苦笑)、なんだかんだ言ってこのふたりの間にも、確かな温かい情を感じたのも、確かです。
大根餅やおあげがじゅわっとした衣笠丼や鶏団子のほこほこお鍋がおいしそう。
彗太君の名前、私も前々から素敵だなと思っていたんですよね。
素敵なエピソードがまたひとつ追加。
いつの間にか進路が決まった形になっている彗太君に、菜月ちゃんが焦るのは、ちょっと分かる気が。
実際成長しましたよね彗太君。
咲子さんにも冷静に自分で意見を言って自分の意志でお弁当作りを決めていましたし。
あの総一郎さんも褒めていたし!

松風焼きと年の暮れ
台湾土産のパイナップルケーキに縁起物クッキー、学生さん達のふわふわパンケーキ研究会が、楽しそう&おいしそう。
私も幸福を呼ぶ……にあやかったお菓子を食べたくなってきました。あとパンケーキも食べたい。
野乃香ちゃんと康介君、つんけんしているけれど微笑ましいですねえ。ふふふ。
松園さんと安藤さんふたりの関係も微笑ましいというか、なんというか、最後まで読んでほっこりしました。
なんだかんだ世話焼きで年配者にも可愛がられている(?)美津彦さんも微笑ましい。
松風焼きの「うらさびし」と「うらがない」の解釈の違いも面白いなと思いました。

「よいお年を」
一年に交わす言葉の中で、いちばん美しい挨拶だと思った。
新しい年は、だれのもとにも訪れる。
あなたの新しい一年がよいものでありますように。
人の幸福を願っても、自分の何かが減るわけじゃないのだから、たくさんたくさん願えばいい。  (136頁)

季節柄もあって、ここの辺りの言葉が今回特に心に染み入りました。

脅迫状と味卵
今度は味がしみしみの味たまごを食べたい……!!
脅迫状は穏やかならなかったですが、幸いにして今回の犯人は、まあ可愛らしくてほっと胸をなでおろしました。
永谷氏の「弁当の中身が前もってわかったら、楽しみが減るじゃないか」が、こんな場面なのに可愛くてうっかりときめきました(笑)。美津彦さんへの人でなし発言も、花柚さんへの愛も同時に感じて、いっそうときめきました。
さて莉緒ちゃんあれから上手くいったのかしら。
五種類のおにぎりもチキンの梅しそ照り焼きも、おいしそうなお弁当だなあ。
花柚さんが莉緒ちゃんに親身になったのには、また理由がありまして……というのが番外編に続く。

サムシングパープルと幸福な日
ついに花柚さんと総一郎さんの結婚お披露目パーティー。
「サムシングパープル」とはあまり聞いたことがないなと思いましたが、なるほど、そういうことね。
彗太君のとっさの機転のブルーベリー餡のひとこまがとても良かった。彼の成長と花柚さんへの思いを改めて実感しました。
美津彦さん意外に(失礼)やるときはやるひとなんですよねえ。
麻里依さんの祝電も、良かった。
最後の場面の春の天丼弁当もものすごく美味しそうです。

番外編 十年後の弁当 ウィークエンドにいちごシロップ
『赤毛のアン』シリーズを彷彿とさせる甘くロマンティックなタイトルの番外編は、なんと総一郎さん視点のおはなしでした。
高校時代の彼の母親とのバトル生活が、彼も普通の男子高校生だったんだなと、微笑ましくなりつつ。
花柚さんのことはまあそんなに距離が近い訳ではなく、それでも彼女の人生に責任を感じてちゃんとデートをしてあげるあたりが、真面目な総一郎さんらしい。素敵だなと思いました。
お弁当本当に十年後で良かったですよね……!!神様に感謝しなくてはいけないレベルでこれで良かったのでしょう。
何より最後の花柚さんへのお手紙が、彼女への愛情がひしひしと伝わってきて、思わず目頭が熱くなりました。
本当は総一郎さんだって何度も手紙書き直してたんだなーと種明かしされると、余計になんというか、愛情を実感します。

これにて完結ということで、欲を言えば彗太君がちどり亭の店主になった未来のお話もちょっと読んでみたかったなとか、花柚さん達の子供も見てみたかったなとか、色々思いはしますが、きれいにまとまったシリーズでした。
私も一応毎日お弁当作りをしているわけで、すべてはとても無理ですが一寸取り入れてみたいアイデアが満載で、そういう意味でも良いシリーズでした。
美味しいものが好きな方、京都ものが好きな方、お弁当作りに興味がある方には、特におすすめなシリーズです。


ここ一週間くらいにそれぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 十三湊 

『純真を歌え、トラヴィアータ』古宮 九時 




音大に入ったもののトラウマによって歌声を失い、声楽の道から脱落してしまった、19歳の椿。
もう一度の大学生活のはじまり、彼女はオペラの自主公演を行う「東都大オペラサークル」のデモ演奏の音色にこころひかれ、指揮者の黒田と言葉を交わす。
同級生と共にサークルに入った椿は、ピアノ伴奏者として必死に頑張る傍ら、サークルのメンバーたちとの交友関係を、ぎこちないながらもゆっくり深めていく——。


古宮九時さん(藤村由紀さん)のメディアワークス文庫の新作。
ずっと志してきた歌を喪い挫折した歌姫・椿ちゃんは、ひょんな出会いから大学生のアマチュアオペラサークルに入ることに。
彼女が出会った孤高の指揮者・黒田さんと、サークルの個性豊かで人の良いメンバー達。
周りの皆に支えられ、椿ちゃんが音楽ともう一度向き合うまでの道のりをたどる、ものがたり。

ストーリー自体はシンプルながら、迷い苦しんだ末に椿が見出した音楽への愛情が胸を打つ、美しく深みのある、とても素敵な物語でした。
背景に光さす表紙イラストとタイトルがイメージぴったり。
彼女が挫折を乗り越えるまでの描写が、まさに真摯。支えてくれる周りの人々の温かさが読んでいてじんわりと伝わってくるのが、良いです。
椿ちゃんと黒田さんの努力を当たり前に惜しまない生真面目でストイックな部分が、作者さんの物語らしい。とても好きでいとおしくて泣きたくなる。
あとサークルの中の、びしっとしていると同時に音楽を軽やかに愛し楽しんでいる雰囲気が、読んでいて心地よい。

腰が低くて真面目で常に丁寧口調で体育会系力持ちの椿ちゃん、自然に共感でき応援して読んでゆける、私好みのヒロインでした。
派手さはないけど側にいるとほっと和むようないいこなんだろうな。『ラ・ボエーム』のお針子ミミの歌が、まさにイメージにぴったり。
アジの干物とか筋トレ三昧とか何か微妙にずれてて本人はまったく気づいていないあたりも愛おしい。
そんな彼女のずれを鷹揚に受け入れておもしろがっているサークルの雰囲気がいいな。

ヒーロー役の黒田さんも、厳しくも面倒見よく格好良く、うーん、好きだなあ!
優秀な指揮者で格好良く女の子に人気があるのかというとそういうタイプではなく、むしろサークル内では面倒見のいいお母さん的な立場というのが、ちょっとおもしろい。
音楽を愛し挫折して再生したふたり、ある意味最大の理解者で、黒田さんが椿ちゃんに向ける、変に甘くも厳しくもない真摯な気遣いと行動の数々が、とても尊かったです。
序盤の少女時代の椿ちゃんと関わりを持った少年のエピソードから、運命のふたり……みたいな雰囲気を漂わせつつ進行していく物語で、再会して(椿ちゃんは気づいていませんが)仲良くなっていっても特に甘さはなく、このままいくのかなー?と思って読んでいくと、ラストでふんわり微糖。
わあ、これはたまらない!
黒田さんの方では「初恋の君」として(たぶん)淡く意識しているものの、椿ちゃんがフラグを速攻でへし折っているのがちょっと気の毒でした。(まあ椿ちゃんは他のことでいっぱいいっぱいで、恋愛モードまで進める余裕は今はまだちょっとなさそう)
目下、黒田さんの最大のライバルは、かなみちゃんでしょうか。
花束を渡しに来たかなみちゃんと受け取った黒田さんの会話の実際のところが気になる。火花ばちばちだったんだろうな(笑)。
かなみちゃんの勝気な強さ、誇り高さが、傷さえ味方として燦然と輝く才能が、椿ちゃんにとってときには辛いのでは……と心配して読んでいましたが、かなみちゃんもいいこですね。椿ちゃん大好きですよね。
まあ確かに黒田さんはとても面倒見が良く優しいけれど、椿ちゃんへの面倒見の良さは明らかに別格なんだろうなと思いますよ。彼女が気づいていないだけで。(そうでなければ彼は今までももっと女の子にもてているのではないでしょうか)

サークルの同級生清河君や先輩の理恵さん、浜崎さん達、みんないいひとで良かったです。
清河君の万能さと何でもやってみて楽しもうとする姿勢とさりげない気遣いが、読んでいて心にしみました。
黒田さんとは別の意味で、椿ちゃんには得難い友人だなあ。彼女と清河君が出会えてよかったな。
サークルそして人生の先輩的な理恵さんと浜崎さん、それぞれ頼もしくていいひとで好きでした!!
おそらくふたりは椿ちゃんと黒田さんのことをあたたかい目で見守っているんだろうな……。

アマチュアオペラのあれこれやオペラの作品解説なども分かりやすく程良く書かれていて、ほとんど知識のない私にとってはありがたく、気軽に楽しく読めました。
そうか、たいてい人が死ぬのか……。
全員の音を拾いすくい上げていくというか、黒田さんの指揮者としてのありようが、何度読んでもあたたかくて好きだなあ。
大学生のサークルのほのぼの仲良さげな雰囲気も楽しかったです。
合宿いいですね。ジャンルばらばらのごちそうがおいしそう。
清河君が持ってきたピザがしょいこんでいた悲劇が、ストーリーとは全く関係ないながらに地味に余韻に残りました。
オペラのお話って、こうして小説でちらりと読んでいるだけだと悲劇的な恋愛とかすれ違いとかシリアスっぽいのですが、大学生のサークルメンバー独特の若いゆるさ、明るさで、重たさを必要以上に感じずさくっと読めるのが、いいなと思いました。

私自身は、大学生時代に一時期音楽系のサークルに入っていたものの色々あってそのサークル自体を挫折した人間で、色々重ね合わせながら読んでいました。
音楽に愛されなくても、愛してるって、ああ、シンプルでとてもいい言葉だな。
そうそう、学生の音楽サークルって、本当になにげにレベルが高くてびっくりするのです。

椿ちゃんはこれからサークル内で歌姫として活躍していきそうだし、ほんのりとした恋の行方も気になるし、続きもあればぜひぜひ読んでみたいな。

(余談:「ミミ」というと、どうしても、Unnamed Memory 内の無邪気な美少女ミミちゃんのことを、思い浮かべてしまう!
かわいらしい名前の響き、可憐で純情なイメージが、オペラの登場人物のミミ、ひいては椿ちゃんのイメージにも重なる気がして、読んでいてほんわり嬉しかったです
!)

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 古宮九時 

『ちどり亭にようこそ~今朝もどこかでサンドイッチを~』十三 湊 




総一郎との結婚に伴い「ちどり亭」を畳まなければならなくなった花柚だが、アルバイトの彗太が店を継ぎたいと申し出たことによって、猶予期間として二年間店を続けられることに。
しかしそのためには期間限定の店のオーナーを見つけなければならない。
店を継ぐ心構えで、改めて修行をはじめた彗太だが、上手くいかないことも多くて——。


『ちどり亭にようこそ』シリーズ第三弾。
京都の仕出しお弁当屋さんが舞台の日常のものがたり。
シリーズ前二作がとても好みですっかりファンになってしまっていたので、三巻目が出るとのこと、たいへん楽しみにしていました!

ていねいに作られる家庭料理の延長線上にあるおいしそうなお弁当、京都の伝統あるお家の人々の風雅な暮らしぶり、人が好いキャラクター達の掛け合い、すべてが調和して読み心地の良い世界を構築していて、ああ、やっぱりいいなあ。
ふくふくとした幸福感に読んでいていっぱいにつつまれました。
無邪気で可愛らしくお料理熱心な現代京都のお嬢様花柚さんと、バイトの今風大学生彗太君のふたりが何といってもやっぱり好きです!

前回の自分の感想を読み返していて、そういえば私、花柚さんに影響されて花柄の割烹着を買ったんでしたっけ、思い出しました(笑)。割烹着便利であれから大活躍しています。

『今朝もどこかでサンドイッチを』のサブタイトルの意味が、じんわり胸に来るラストでした。
いつかは来るかなー?と思っていた展開でしたけどね。どっきりしました。
あと今回はなんといっても美津彦さん大活躍の回でもありました。だいぶ彼を見直したかも。

まずは彗太君のきんぴらに物申した梶原さんのエピソード。
お客さんからの厳しい指摘に落ち込みスランプに陥っている彗太君を励ます花柚さんのやり方が、花柚さんらしい柔らかで信頼のこもっているもので、読んでいて心に響きました。
栗やさつまいものぽくぽく系はお肉料理によく合うって分かる!
彗太君の頑張る姿を見ていたらほうれん草を食べたくなってきたので、次の日のお弁当のおかずにほうれん草を入れました。今の季節のほうれん草は甘くて肉厚で美味しい。
そして花柚さんのところで働くようになってから人の悪口を言わなくなったという下りが好きです。

海老フライと新キャラ大学生・康介君のエピソード。
配膳司、またひとつ新しい職業名を知りました。改めて京都は奥深い。
康介君の勘違いはとんでもなかったですが、でも言われてみれば、お弁当を作る相手って限定されているよなあ。とも。
野乃香ちゃんと康介くんの仲が悪いんだか良いんだかの勢いのいいやりとりが面白かった!!
わいわい集まっていると学生さん達みんな楽しそうで青春でいいなあ~(にこにこ)。
父親を尊敬し愛する息子の姿が印象的でした。
海老フライおいしそうですねえ~しば漬けを使ったピンクのタルタルソースにもなにげに心惹かれました。

野菜嫌いのお父さんのエピソード。
ふわふわもちもちのつくねの秘密はそういうことだったのか!花柚さんが明かした亡きお母様の手間暇と愛情に心打たれました。(そしてすかさずの奥様へのフォローがさすが。)
花柚さんの「実は栄養のことって、「よくわからない」っていうのが正確なところなの」当たりの台詞が、心に残りました。
私も昔身体の不調のため必死にご飯の内容を制限していたころより、あまり囚われず好きなものを食べることにしたと同時に毎日の行動パターンを変えてからの方が、体調が良くなったことがあるからな……。
それはともかくこのお話の、野菜嫌いの人のために花柚さんが工夫をこらしたお弁当が魅力的です。
ウインナーを蒸し炒めして、ほうれん草ペーストをを卵に混ぜて巻いて焼いて、三色玉子焼きにするの、今回一番心惹かれました。これいつか作ってみよう!
ごぼうブラウニーも気になるなあ。
あと永谷氏のお母さまがなかなか予想外の方向に強烈でした。苦労されてますね……。
永谷氏の「禁句」を必死になって守り通す花柚さんが格好いい(笑)。

そしてサンドイッチのお話。
花柚さんがしゅっと美しくこしらえるフルーツサンドの描写がとても素敵……!!ご飯の時間に食べるフルーツサンドが罪の味というのは、分かります。
思いがけないところから思いがけない人が登場してきたな、と。
結局のところ公篤さんも麻里依さんもいいひとでお似合いのふたりで、たまごサンドを通して花柚さんが麻里依さんの人となりを悟って認める、という流れが、良かったです。
北山の植物園、たまたま私自身が先日出かけたばかりで雰囲気を具体的に思い浮かべられたのが、良かった。
花柚さんの周りに美津彦さんや総一郎さん、そして彗太君たちがいて、良かったな。と思いました。
琵琶を奏でる花柚さんの姿が印象的でもありました。
公篤さんの抱える屈折もなんか分からないではないなと思いました。総一郎さんと花柚さんがいま幸せだからまあそれ以上思わずにすんでいるといいますか。
公篤さんの彗太君への贈り物もずっしりくる。
大切な人に、美味しいものを食べて、幸せであってほしい。
そんな願いを込めて日々お弁当をこしらえる花柚さんの仕事ってとっても素敵だし、そこまでいかずとも日々お弁当を作る幸せを改めて肯定された気がして、しみじみ幸福感にひたれるラストでした。

最後は美津彦さん視点の番外編。
彗太君視点以外から物語を眺めるのははじめてなので新鮮でした。
ぐうたらニート気質だけど研究者としては(多分)優秀で、気遣いもできるしなんだかんだ人が好く世話焼きな美津彦さん、だいぶ見直しました(笑)。
莢子さんと美津彦さんのさばさばした腐れ縁的な関係がなかなか良いです。
莢子さんのお母さんも悪い人では全然なく娘想いのいいひとなんだろうけれど、かみ合わなさがちょっと切ない。
花柚さんは料理に関しては本当に頼りになるなー!!
あと松園さんもやっぱり素敵なおじさまだな、とか。
花柚さんのお見合い連敗の一因はそこだったのか!とか。
分かりづらく花柚さんと総一郎さんの仲を後押ししている美津彦さん、とか。
おばあさまへの想いとか。

十三夜に十五夜に、和洋のお月見に集う人々の場面も、印象的でした。
子どもを親が思う心、受け継がれてゆくもの、しあわせでありますように、すこやかでありますように、そんな愛情と祈りの情が心に印象的に残るお話の数々だったように思います。

花柚さんと総一郎さんのふたりは結婚間近で相変わらずラブラブみたいでなによりですし、彗太君と菜月ちゃんも、上手くいってほしいな~。(口絵イラストの笑顔のふたりと見守る花柚さんが素敵)
続きもぜひ読みたいです。ぜひとも!!


昨日それぞれの記事に拍手くださった方々、どうもありがとうございました♪

カテゴリ: 日常のお話

タグ: 十三湊